メタフォリカル・パターン・アナリシス再考
認知メタファー理論(conceptual metaphor theory, CMT)では、メタファーは単なる言葉の彩ではなく、我々の日常に無意識的に偏在するものであり、認知機構の本質をなすものとして示されており、認知機構としてのメタファーは、言語表現としてのメタファーと区別して、概念メタファーと呼ばれている(Lakoff
and Johnson1980, Grady 1997, Lakoff and Johnson 1999)。
概念メタファーはSD(起点領域、Source Domain)からTD(目標領域、Target Domain)への写像(mapping)と定義されるが、その分析結果については、言語学者の恣意性や写像関係の欠如などがたびたび問題視されてきた。そこでStefanowitsch(2006)は、コーパスを用いた概念メタファーの分析手法としてメタフォリカル・パターン・アナリシス(Metaphorical Pattern Analysis, MPA)を提唱し、感情の概念メタファーを示すKövecses (2002)の分析結果との対比から、従来の手法を十分にカバーし、かつそれ以上の概念メタファーが特定できたと報告している。
たしかに、TDを明示的に示す語を含む表現(メタフォリカル・パターン、MP)を分析することにより、何について例えている表現であるかの曖昧性は払拭される。またコーパスを用いる分析では従来よりも多くの用例を考慮できるという利点がある。
一方、概念は一般的に上位レベル(EMOTION)、基本レベル(ANGER)、下位レベル(annoyance,
wrath, rage)の階層構造を持つことが示されるが(Kövecses 2000:3-4)、
Stefanowitsch(2006)がMIPの分析手法を施す対象としているのは基本レベルに相当する感情の概念である。
そこで本研究では、上位レベル、下位レベルの概念について、実験的にMPAを用いて分析を試みた。その結果、その概念を代表する具体的な語の特定が難しい上位レベルの概念においては、先行研究にあげられるような言語メタファーを特定することが難しく、十分に機能するとはいいがたいことが分かった。
主要参考文献
• Grady, J. (1997) Foundations of meaning: Primary Metaphors and
Primary Scenes. PhD dissertation, Berkeley, University of California.
• Gries, S. T. and A. Stefanowitsch (eds.). (2006) Corpus-based
approaches to metaphor and metonymy. Mouton de Gruyter. Berlin: Mouton de
Gruyter.
• Kövecses, Z. (1990) Emotion concepts. Berlin and New York:
Springer-Verlag
• Kövecses, Z. (1998) Are there any emotion-specific metaphors? In:
Angeliki Athanasiadou and Elznieta Tabaskowska (eds.), Speaking of Emotions.
Conceptualization and Expression, 127-151. Berlin and New York: Mouton de
Gruyter.
• Kövecses, Z. (2000) Metaphor and emotion language, culture, and
body in human feeling. Cambridge: Cambridge University Press
• Kövecses, Z. (2002) Metaphor: A practical introduction.
Oxford: Oxford University Press
• Lakoff, G. (1993) “The contemporary theory of metaphor.” In Ortony,
A. (ed.), Metaphor and thought, 202-251. Cambridge and New York:
Cambridge University Press.
• Lakoff, G., & M. Johnson. (1980) Metaphors we live by.
Chicago: The University of Chicago
• 鍋島弘治朗 (2011) 『日本語のメタファー』くろしお出版. pp133-149, 228,
255-256
• 谷口一美 (2003) 『認知意味論の新展開ーメタファーとメトニミー—』研究社.
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